ミルキィローズVSキングギドラ16

これが円盤に攻撃を仕掛けるのであれば、戦力の分散を避けてわたし、ローズ、PGFと手持ちの全力をぶつけるべきなのだが、今はその時ではないということだ。

交渉役という危険な役目には、ある程度自分の身を自分で守る能力のある者がよい。わたしかローズだ。その内「失ってもより損失の少ない方」は、わたしである。そういう計算を行い決断するのが指揮官である。彼らは時に感情を押し殺してその決断を行わなければならない。

わたしは、ココとナッツの決断を支持することにした。捨てゴマのようにされるのは気分のいいものではないが、彼らも相当に悩んで決断している。わたしにできることであれば、協力して少しでも指揮官の苦悩を解消してあげたい。

「わかったわ。わたしがキュアアクアに変態(メタモルフォーゼ)して円盤に呼びかけてみるわ。」
「ありがとうナツ。呼びかけの案文はナッツとココが作るナツ。」

ミルクが申し訳なさそうにわたしを見ていた。

「かれん、ごめんミル。ミルクの思いつきのせいで…。」
「いいのよ。わたしがやりたいからやるんだもの。それに、未知の存在とのファーストコンタクトをわたしがやるなんて、わくわくするじゃない。」
「ミル…。」
「大丈夫。わたしを信じて。わたしはプリキュアなのよ。」

ミルキィローズVSキングギドラ15

「ミルクだけで心配なら、わたしも行くわ。」

ちなみにわたしはパルミエ王国の内政事項であるPGFの行動について干渉することはできない。協力の要請に対しての諾否を表明することと、行動に対してわたしから協力を申し込むことができるのみだ。

「ナツ…。ナッツはミルクにもかれんにもできれば行ってほしくないナツ。危険ナツし、待っていたら円盤がどこかにいなくなってしまうことだって、あるかもしれないナツ。」
「では、このまま待つというの?」
「いや、ミルクのいうことも一理あるナツ。待つだけというのは確かに消極的に過ぎるナツ。だから、こちらからの呼びかけを行ってみたいと思うナツ。」
「ココもそれには賛成ココ。」
「でも、何が起こるかわからないから、ミルキィローズは手元に残しておきたいナツ。だから… 申し訳ないナツが、かれんだけで行ってもらえないナツか?」
より強力な戦力を手元に残しておきたいというのが、指揮官ナッツの決断らしい。ココは渋い顔をしているが、反対はしない。ココの決断も同じなのだ。

ミルキィローズVSキングギドラ14

「そうココね。しばらく円盤の動きを見て、部隊の増減をすればいいと思うココ。」
「ちょっと待ってほしいミル。本当にこのまま待つだけでいいミル?」

ミルクが発言する。パルミエ王国最強の戦力であるミルキィローズには、PGFの運用、作戦、指揮についての発言をする権利が認められている。

「このまま待つだけではなくて、こちらから呼びかけてみてはどうミルか?こちらが敵ではないことを呼びかけてみるミル。何か応えてくれるかもしれないミル。」
「呼びかけるとして、誰がやるナツ。危険ナツ。」
「ミルクが行きますミル。ミルキィローズに変身すれば多少のことは平気ですミル。」
「そうかもしれないナツが…。」
「まあ、ナッツ。確かに、円盤の意思がわからなくてココたちが不安になっているのと同じように、円盤のほうもココたちを不安に思ってるかもしれないココ。だから、ミルクのいうようにココたちの意思を円盤に伝える、というのも悪い案ではないと思うココ。」
「そうですミル。女は度胸、どーんと行ってきますミル。」

ミルクが腰に手を当てて得意そうにのけぞる。あまりにのけぞりすぎて後ろに倒れそうになり、あわてて上体をもとに戻す。それを見てクスッと笑ってから、わたしが発言する。

ミルキィローズVSキングギドラ13

やがて、ココの本隊が到着し、先発隊の報告を元にして、円盤を取り囲むように布陣した。天幕の入り口の両側に二本の国王旗が掲げられ、ココとナッツの在陣を示す。

「それではナッツ、状況を説明してほしいココ。」

先発隊の指揮官であった(本隊に合流したので先発隊は編成を解かれた)ナッツが、円盤について集めた情報を本隊の指揮官であるココと、本陣に詰めている各隊の隊長たち、そしてわたしとミルクに説明した。

大まかなことがらは到着前に伝令を走らせて本隊に伝えてあるが、改めて全部隊の認識を共通させるための措置である。

円盤は人工物に間違いない。ライトが回転し続けていること、何らかの装置の作動音が途切れず続いていることから、アイドリング状態ではないかと推定されること。中に誰が乗っているのか、遠隔操作されているのか不明であること。また、少人数を先発隊から分離してシロップの捜索も同時に行ったが、何の手掛かりも見つからなかったこと。

「そして結局、あの円盤が何の目的で飛んできたのかは全くわからなかったナツ。相手の目的がわからない以上、このまま監視を続けるほかないと思うナツ。」

ミルキィローズVSキングギドラ12

「あの円盤に、誰か乗っているのかしら?」

今見たかぎりでは、窓やドア、乗り込むためのハシゴなど人が乗っていることを示す物は見つけられなかった。あれは中に誰もいない、無人で遠隔操作される円盤なのだろうか。

ミルクが呼びにきた。天幕と馬(?)をつなぐ柵の設営が終わったらしい。馬(?)を柵に繋いで天幕に入ると、簡単なイスと盾を並べた机が用意されていた。大河ドラマに出てくる戦国時代の本陣にそっくりだ。(事実参考にしたらしい。)

「お疲れさまナツ。少し休むといいナツ。」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ。」

ココの本隊が到着するまでまだしばらく時間がかかる。ミルクとわたしは交代で円盤を見張ることにした。(わたしたちの他にも見張りの隊員はいた。)わたしたちが休んでいる間にも、ナッツは様々な報告を受け、一つ一つに指示を与えていた。

ナッツハウスで豆大福を食べているナッツと、国王として政軍の指揮をとる今のナッツはまるで別人のようだった。

ミルキィローズVSキングギドラ11

201X年 パルミエ王国 領内

先発隊は円盤の全体が見渡せるよう、少し離れたところに馬(?)を停めた。円盤がすぐに動き出す気配はない。

「すごく…大きいわね。」

円盤の直径は100m以上あるように見える。わたしは望遠鏡で円盤の細部を観察する。表面はのっぺりとしており、プラスチックのような光沢を持っている。円盤の下には台座がある。台座と円盤がつながる部分はトラス構造になっていて、中ではいくつかの巨大なライトが水平に回転していた。

やはり、この円盤は生物ではない。明らかに人工物である。では誰が、何の目的でパルミエにこの円盤を持ち込んだのだろうか。それを外観からうかがうことはできなかった。

わたしは望遠鏡を目から外して、腰に提げているパルミエの実でできた水筒を手にとり麦茶をひと口飲んだ。反対の腰に提げたかばんにはパルミエの葉で包んだ塩おむすび(麦茶とおむすびは王宮のお世話係たちが作ってくれた物だ。)が入っていたが、それにはまだ手をつけないでおくことにした。

ミルキィローズVSキングギドラ10

201X年 パルミエ王国 王宮

シロップは予定の時間を過ぎても来なかった。シロップといえども、空を飛んでくるのだ、天気によって少し遅れたりすることがあっても仕方がない。だが、昼が過ぎても、夕方になってもシロップは来なかった。何かあったのだろうか。ナッツが捜索隊を編成して城壁の外を捜索させているが、今のところ動きはない。

シロップは心配だが、もう朝から何も食べていないのでミルクと夕食をとることになった。夕食はカレーライス。パルミエ料理のシェフが春日野家のレシピを再現したもので、わたしたちがパルミエにやってきたときの定番である。味はシェフの好みが反映されているのか、春日野家のカレーよりも若干甘口だ。

カレーポットからルーをとり、ご飯にかけると香ばしい香りがする。普段であればこの香りがまた食欲を誘うのだが、シロップのことを思うとその香りも精彩を欠いてしまうのだった。

「やっぱり、あの円盤のしわざミル。そうとしか考えられないミル。」

シロップが遅れたことが今までなかったわけではない。やはり風や天気が悪ければ飛べないこともある。それでも、ここまで遅れることはなかった。それならば今までと違う、何か別の原因で遅れていると考えざるをえない。可能性として浮上してくるのはやはり謎の円盤だ。カレーを食べて再びシロップを待つ。夜になっても、シロップは来なかった。

翌朝、捜索隊が持ってきたのはシロップ発見の知らせではなく、謎の円盤が着陸しているのを発見したという知らせだった。ココとナッツはただちにPGFに招集、待機の命令を出し、城内に触れて回るよう命令した。

招集したPGFの編成はココが行い、ナッツは先発隊を編成して自ら率い、詳細な偵察を行うこととした。この先発隊は後続してくる本隊に伝令を出して円盤の情報を伝えながら、その場に留まり本隊の到着を待つ。わたしとミルクもこの先発隊に加わることとした。