ふたりはプリキュア 又プラッシュ※又ター

注:今回はいつもに増して長いです。


 バルデスジャアクキングが倒れた後、光の園虹の園、そしてドツクゾーンは危ういバランスを保ちながら、互いを呑み込むことなく3つとも存在していた。ドツクゾーンにおいても、かつてプリキュアに倒された者たちが徐々に闇から還り、住人たちの新たな生活が始まりつつあった。
 ジャアクキングは既になく、もはや全ての世界を闇で呑み込むことなど不可能であると悟った彼らは現状を維持することを望んだ。しかし、現状を維持するにも力がいる。今この時にでもクイーンを擁する光の園がかつての報復を目論み、ドツクゾーンを滅ぼさんと攻め込んでくるかもしれない。それを否定することは誰にもできなかった。
 光の園に勝つ、勝てなくても彼らに侵攻を頓挫させるだけの力を持たなくてはならない。その時彼らが思いを馳せたのは、かつて自分たちの同胞、ダークファイブ、ダークシード、四天王、そしてジャアクキングを打ち破った「プリキュア」たちの姿であった。
 目には目を、歯には歯を、プリキュアにはプリキュアを。強い光から闇を守る、我らのためのプリキュアを。こうして、かつてプリキュアと戦った者たちを主として、闇のプリキュアを作る計画が始まったのである。
 結論から言うと彼らの計画は間に合わなかった。ウィズダム軍の強大な力によって再建途上のドツクゾーンは蹴散らされ、今やドツクゾーン光の園の属国として存在している。強い光に照らされた闇は、やがて消え行く定めである。
 しかしそれでもあきらめない者たちがいた。ダークファイブである。彼らはようやく完成に漕ぎつけた試作品のプリキュアシステムとともに、虹の園へと逃亡したのである。メップルとミップルがそうしたように。
 そして今、ウィズダム軍は「すべてをひとつにするために」をスローガンに虹の園への侵攻を開始した。第一目標は必ずや障害となるであろうプリキュア、すなわち美墨なぎさ雪城ほのかを抹殺すること。プリズムストーンと光の力を遮断したとはいえ、ウィズダムにとってプリキュアはなお恐るべき存在であったのだ。
 かくてウィズダム軍の尖兵、メロ大佐と地獄ポルンが虹の園に現れた。彼らはなぎさとほのかに今まさに襲いかかろうとしている。ここにプリキュアダークファイブの利害は一致した。プリキュアは自らの身と、彼女らの大事な人を守るため。ダークファイブは自分たちの世界を取り戻すため。かつて敵として戦った彼ら彼女らは恩讐を乗り越え手を繋いだ。何という因縁であろうか。

「こらカブキマン!ほのかの方ばっかり見てるんじゃないわよ!叩き潰すわよ!」
「すまない悪かったカブ。ちゃんとなぎさの方をみるカブ。」
「こっちも見るなー!」

 なぎさとほのかの衣服は分解され、今は全裸に近い。闇の力によって衣服の再構築が行われ、黄色いリボンがなぎさの手に巻きつく。なぎさがそのリボンを見ると、細かい百合の刺繍がなされていた。ドツクゾーンの少女たちが、自らの世界のために戦う少女たちの武運長久を祈って丹念に行った「ドツク千人針」である。この千人針の神通力によって、あらゆる弾を避けかわし、弾き飛ばすことができるはずである。やがてリボンは青い炎に包まれ、アームカバーを構築した。
 ほのかには青いリボンが巻きついた。構築されたコスチュームには「光の使者」の時と同じように元気、本気、やる気の証明であるフリルがつけられていた。レースのフリルにはこれまたユリの刺繍が施されていた。なぎさのフリルには黒ユリの、ほのかのフリルには白ユリの刺繍であった。とにかく、細部まで手の込んだコスチュームである。ほのかはふと思った。

「汚しちゃってもいいのかしら・・・?」
「心配ないツル。これは元々はお前たちの服だツル。それを闇の力でコーティングし、再構築したに過ぎないのだからなツル。変身が解ければまた元通りに再構築されるツル。」
「それなら安心ね!」

 変身が終わりに近づく。髪の毛は以前のようには増えず、2人の元々の髪型から変わらなかった。なぎさの頭の右側に黒ユリが、ほのかの頭の左側には同じように白ユリが咲いた。ユリの花言葉の一つに「威厳」がある。ドツクゾーンプリキュアに求められたのは、プリキュアの威厳でもってドツクゾーンを守ることである。その思いがコスチュームの各所にこれでもかこれでもかというくらいに施されたユリの意匠に秘められているのであった。いくつかのリボンは、コスチュームを構築した後も姿を残しゆらゆらと揺れている。
 変身が完了した。炎の柱は消え去り、2人がその中から姿を現す。この間僅か2分である。

「ポォポォ!プリキュラポォポォ!」
「なんだと!変身しただと!」


「闇からの使者、キュアイエロー!」
「闇からの使者、キュアブルー!」
「「ふたりは、プリキュア!」」
「眼(まなこ)を眩ます偽りの光よ!」
「とっととおうちに、帰りなさい!」


「メポー!プリキュアメポ!プリキュアが帰ってきたメポ!」
「なんだかとっても複雑ミポ・・・。」


「ほのか・・・。」
「なぎさ・・・。」
「イエローだって・・・。」
「わたしはブルーよ・・・。」
「高校生でもプリキュア・・・。」
「ごく普通の日常を、大事な人を、この世界を守るためなら、高校生だって・・・ううん、たとえおばあちゃんになったってプリキュアに変身してみせるわ!」
「ブルー!そうだよね!メロ大佐それに地獄ポルン、覚悟しなさい!私たちは絶対負けない!」
「そうよ!絶対負けない!」


 頭が痛い、身体が動かない。ほのかさんは、お姉ちゃんは無事に逃げられたのかな。あの怪獣は・・・?だんだんとぼやけた視界がはっきりとしてくる。頭の後ろが暖かくて柔らかい。おでこに冷たいものが乗っかっている気がする。タオルかな・・・。

「大丈夫ですか?!」
「うう・・?ひかりさん?」
「よかった、気がついて・・・。」

 目に入ってきたのは、僕の顔を覗き込むひかりさんの顔だった。少し安心した顔をしている。そうか、ひかりさんが僕を介抱してくれたのか・・・じゃあ、頭の後ろの暖かくて柔らかい感触は?まさか、この体勢は、俗に言う、ひざまくらってやつじゃあ・・・。そんな、ひかりさん、僕にはほのかさんっていう・・・。

「動けますか、亮太さん。」
「は、はい!」
「きゃ」
「うっ」

 ごつん。僕が勢いよく起き上がっちゃったから、覗き込んでいたひかりさんのおでこと僕のおでこも勢いよくぶつかっちゃったんだ。痛い。ひかりさん、ごめんなさい。うああ、ほんとうに、ああ、すごい涙目、本当に、あの、その、うわあ。