ふたりはプリキュア 又プラッシュ※又ター

 なんで今日に限って入澤キリヤがタコカフェにくるんだよう!しかもなんでお持ち帰りじゃなくてここで食べていくんだよう!あ、こっちに気がついた。でも別の席に座った。当たり前か。別に僕と一緒の席で話なんてする必要ないもんなぁ。それにしても、ひかりさんがいるとはいえ、なんだかとっても居心地が悪いよう…。
 マヨネーズをたっぷりとかけたたこ焼きを食べるキリヤをちらちらと見ながら、亮太も九条すぺしゃるをひとつ、またひとつと消費していった。ふたりが食べ終わったのはほぼ同時、後から来た分だけキリヤの食べる速さが上回っていたようだ。そして、キリヤは鞄から文庫本を取り出しページをめくり始めた。タイトルは『ツァラトゥストラはこう言った』。ニーチェだ。
 なんか、本を読み始めちゃったよ。もしかして、入澤キリヤもほのかさんを待っていたりとかするんだろうか。ああ、さらに居心地が悪いよう!それで、この状況でほのかさんがきたらどうなるんだろう?ほのかさんは、僕と、入澤キリヤと、どちらに声をかけるんだろう?僕に声をかけてくれなかったら?うああ、どうしたらいいんだ。
 亮太の頭を思案が巡る。キリヤの眼中に亮太は入っていない。いや、入っていないのではなく意図的に視界に入れていないのだ。なぜそうしたいのかキリヤ自身にもよく分からなかったが、とにかく視界に入れたくなかった。亮太に対して微妙な敵意すら抱き始めていた。そしてそれは亮太がほのかに告白することを知ったあのときから始まっていた。
 なぜだ。なぜあのキュアブラック美墨なぎさの弟、美墨亮太のことがここまで気にかかるんだ。美墨亮太はこう言った、僕は雪城先輩に告白しようと思っています。美墨亮太はおそらく美墨なぎさから、ボクがほのかさんに好意を寄せているということを聞いたんだろう。だから許可を求めるような発言をした。許可だって?ボクとほのかさんの関係を一体どんなものだと思っているんだ。…ボクにも分かっていないのにな。
ボクの寄せている好意、ほのかさんの寄せている好意、それは虹の園で「友情」と呼ばれている。そのはずだ。「友情」であるならば、美墨亮太がほのかさんに告白したとして彼を敵視する理由はない。ということはボクがほのかさんに寄せている好意は「友情」ではないんだ。ボクがほのかさんに寄せている好意は、つまり、「恋」やその先にあるといわれている「愛」という好意なのだろう…。分かりかけていたこととはいえ、ほんとうに自覚してしまうと、気恥ずかしい…。

「ごめんなさい、入澤先輩と亮太さん、こっちの席に移ってもらえませんか?ちょっと混んできてしまいましたので…。」
「「ええぇ?」」

 それぞれの席で自問自答を続けていた恋敵たちは、クイーンの導きによってひとつの席で相まみえることとなった。戦いは次のステージに移行したのである。