ふたりはプリキュア 又プラッシュ※又ター

 全てを食い尽くし、飲み込むことを諦めたドツクゾーンの知識層(プリキュアとの戦いのさなかで虹の園を垣間見た者たちが主である)は、ドツクゾーンを全てを生み出すことのできる世界とするためにインフラストラクチャーの整備を進めていた。
 各種の開発の中で最大のものはやはり首都ドツクグラードの建設であった。かつてジャアクキングの鎮座していた場所に、首都機能を司る官庁街、虹の園での戦役を記念した(そして記憶するための)広場、その広場から放射状に広がる大街路などが整備され、虹の園の欧州に見られるようなバロック調の大都市が徐々に形を成していった。
 しかし、その首都もいまや新たな支配者の手中にある。光の園最大の軍閥ウィズダム軍の侵攻により占領されたドツクゾーンは、ウィズダム公爵領プリズムゾーンに、首都ドツクグラードはウィズダムグラードへと改められた。かつてジャアクキャッスルと呼ばれた宮殿、その玉座には新たなる支配者が座していた。

「確かに、プリキュアだったのだな。」
「違うポポ!あれはドツクゾーンのあんちくしょうどもが作ったプリキュラのパクリポポ!」
「そのパクリに、お前は胸の骨を折られ、私が目付役につけたメロ大佐を盾にして、おめおめと逃げ帰ってきたというわけか。王子にあるまじき痴態だな。」
ウィズダム公!こ、言葉が過ぎるポポ!」
「これは失礼した。ポルン王子。」

 ウィズダムは口の片端を持ち上げて笑った。さすがのポルンも馬鹿にされているということに気がついていたが、現時点での光の園における最大の権力者には逆らうことができなかった。
 プリキュアジャアクキングの戦いが終わった後、光の園では領土の再配分が行われた。戦功のあったものはクィーンにより爵位と領土が与えられ、(誰にそれらを与えるのか、実際に選んだのは長老と番人である。)彼ら諸侯は自分に与えられた領土を治めていくこととなった。
 それら光の園諸侯の中で最大の実力者が石の番人ウィズダム公爵である。番人はジャアクキングと戦った者たちの中でも、相当に虹の園にいた期間が長かった。瓢箪池での雌伏、洋館での幽閉、これらの期間を彼は無為に過ごしていたわけではなかった。特に漫画と呼ばれる書物を多く読んでいたことは知られているが、それ以外にも様々な書物に触れ、虹の園の知識を蓄えていたのである。
 蓄えた知識に基づいて、番人は大小多岐に渡る領内の改革、開発を行った。番人が自分の領土として囲った地域は光の園の中でも比較的生産力のある裕福な地域であった。その生産力が虹の園からもたらされた制度と技術により底上げされ、ウィズダム公領には富が集まり、人が集まるようになっていった。富と人が十分な数に達したと見た番人は今まで光の園の歴史に存在しなかった常備軍ウィズダム軍を組織する。
 その日はドツクゾーン処分についての諸侯会議がクィーンの宮殿で行われていた。やがて議論は2つに分かれる。門戸を開き共存しようとする共存派と、弱りきったドツクゾーンを光の力でもって征服しようとする征服派である。共存派のトップには長老が、征服派には番人が座っていた。やがて議論は紛糾し、それぞれの派閥はついに刃を交えることになった。大いなる傀儡たるクィーンと王族たちはなすすべがなかった。外憂に対し一枚岩で戦った光の園の住人たちは、外憂がなくなり安定するやいなや同族同士の争いを始めたのである。
 オムースプ男爵領セキガーラで行われた戦いにおいて、ウィズダム軍を主体とした征服諸侯連合軍は、共存諸侯連合軍を完膚なきまでに叩き潰した。よく訓練された常備軍と、俄仕立ての徴募軍では初めから勝敗は明らかであったのだ。
 戦いの後に、征服派諸侯のほとんど、共存派諸侯のいくらかは番人に領地を差し出し、番人はその領地を併合した。もはやウィズダム公爵領は光の園の3分の1を領有し、王族直轄領を凌ぐ最大最強の勢力となっていた。クィーンと王族はますます番人の傀儡となり、もはや光の園の支配者が番人であることは誰の目にも明らかであった。戦いの後隠棲していた長老が川に自ら身を投げたのはクィーンの宮殿の前に光の使者プリキュアを称える戦勝記念塔が完成したその日のことであった。もちろん、抜け目ない番人は手下に命じて長老を救出し、その身柄を確保したが。
 そうして、光の園を平らげた番人は矛先をドツクゾーン、そして虹の園に向け現在に至るのである。

「まあ、王族をこれ以上危険に晒すわけにはいきませんからなぁ。ポルン王子、あなたは宮殿に帰られるのがよいでしょう。」
「ポポ!大丈夫ポポ!ポルンが本気を出せばあんなパクリキュアなんて物の数ではないポポ!もう一回虹の園に行ってくるポポ!」
「ソフクープ、ポルン王子に帰りの車の手配を。」
「はい。」
「ポルンはまだやれるポポ!」
「まあ、怪我が治るまで養生なさることですな。ポルン王子の才能があればまだまだ戦功を立てる場所もありましょう。」
「ポポ…。」
「ポルン王子、お車の準備ができました。」
「ポポ…。」

 ポルンは肩を落として帰っていった。番人は困った目をしてその姿を見送った。傍らに控えたソフクープが番人に同情の視線を寄せる。

「あの王子、自分の領土を持って城を立て、そこでひかり様とふたりで暮らすというふざけた夢をお持ちのようで。」
「その自分勝手な夢が実現すると、誰かが実現させてくれると信じているからたちが悪いな。メロ大佐にはかわいそうなことをした。」
「ええ。まさかドツクゾーンプリキュアシステムを完成させていたとは思いませんでした。」
「ポルンがなぎさとほのかにダークファイブを引き合わせたようなものだな。」
ダークファイブの討伐、王子には荷が重過ぎる任務でしたね。」
「私とてなぎさとほのかと戦うのは少々気が引ける。あの2人は我々の世界を、すべての世界を救ったのだ。あの2人は、強い。」
「で、あるならば我々もそれなりの相手を当てなければなりません。なぎさとほのかをよく知るものがよいかと思い、人選を終えております。」
「抜かりないな、参謀総長。」
「恐れ入ります。宇宙(ユニバーサル)ヒミップ、宇宙ヒメープ、これに。」
「「ははっ。」」

つづく