ミルキィローズVSキングギドラ9

その異様な星は空に静止した。そして星はさっきよりも明らかに大きくなっている。どんどん近づいてきているのだ。やがて星の輪郭がはっきりしてくる。お皿を逆さまにふせた形の円盤に、台座のついた物体だった。そんな物体は絶対に星ではない。お皿と台座のつながる部分からいくつかのライトが、水平に回転しながら強い光を放っていた。

謎の円盤はゆっくりと、その巨大な姿をパルミエの人々に見せつけながら、何かの回転する機械音を発して飛んでいった。

「いったいなんだったミル…。」
「わからないわ…。でも、あれは絶対に自然のものじゃないわ。どこかの誰かが何かの目的を持って、パルミエの上を飛ばしたのよ。」
「嫌な予感しかしないミル。」
「そうね。みんなを呼んだ方がいいかもしれないわ。」

明日にはシロップが定期便でパルミエ王国にくる。(元々わたしはこの定期便で帰るつもりだった。)ミルクと一緒に向こうに行ってみんなをパルミエに連れてこよう、そう思った。

ミルキィローズVSキングギドラ8

西暦201X年 パルミエ王国

その星の異様な挙動に気がついたのは、王宮で暦を作るために毎日星を眺める役目の者だった。その星は突然空に現れた。そして瞬きもせず、白い光を放ちながら西から東へ滑るように移動し始めた。星は東から登って西に沈む。パルミエでもそれは同じことだ。

異様な星に気がついた人々が不安そうに空を見上げ、城壁の中も、王宮の中も騒がしくなる。このころにはわたしもミルクもその星を見ていた。

「UFO…。」
「ゆーえふおー、ミル?」
「UnidentifiedFlyingObject。空を飛ぶ正体不明の物体のことをわたしたちの世界ではそう呼ぶの。」

わたしたちの世界でのUFOの99%は見間違いだと言われている。空は人工衛星、山の稜線に沿って進む車のヘッドライト、飛行機などの多くの光で満ちており、それらを今まで見たことのない何かだと見間違い、思い込むのがUFO現象の正体なのだという。

しかし、このパルミエの夜空には星と街の灯り以外の光はない。見間違いようがないのだ。

ミルキィローズVSキングギドラ7

「疲れたミル…。そうミルよね。いつも甘えてばっかりで、ごめんミル。」
「ミルク、それは言わない約束よ。これくらい平気よ。それに…。」
「それに、なにミル?」
「いまわたしはミルクに甘えているわ、たっぷりと。これでお互いさまね。」

ミルクの手が止まった。わたしは振り返り、ほほえんでウインクする。ミルクは真っ赤になって、けらけらと笑いだした。

「そうミルね。たしかにかれんは甘えん坊さんミル。」
「ええ、そうよ。わたしはこう見えて甘えん坊さんなの。覚えておいてね、ふふ。」

わたしとミルク、2人の笑い声が星空に吸い込まれていく。こんな時間がずっと、未来まで続けばいいのにと思った。

ミルキィローズVSキングギドラ6

バルコニーでミルクに髪をとかしてもらう。ほほに当たる夜風が気持ちいい。グレープジュースとグラスは清水で冷やしてあり、飲めばからだのほてりを冷ましてくれる。星の光と町の光が、天と地に2つの星空を作り出す。パルミエの星座は知らないが、星空の美しさはわたしたちの世界と変わらない。

「かれん、どうしたミル?ぼうっとしてるミル。疲れたミル?」
「そうね…。少し、疲れたわ。」

のぞみたちと出会ってから、こんなふうに弱音も隠さずに言えるようになった。それまでわたしはなにがあっても自分一人でなんでもできるし、やらなければならないと思っていた。(それとてこまちがそれとなく助けて支えてくれていたのだが。)

今では助けてほしいときには素直に「助けて」と自分から言えるようになった。一人ではできないことは必ずある。そこで互いを補いながら、助け合ってそれを実現していくのが、友だちというものなのだと今は思う。友だちを頼っても、いいのだ。

だから、このPGFの訓練への協力もいつまでもみんなに隠れて一人でやっていこうとは思っていない。いつか機会を得てみんなと話をして、納得してもらえるなら協力してほしいと思う。その(いつか)をいつにするのか、見極めかねているのだが。

ミルキィローズVSキングギドラ5

ちゃぷちゃぷん。

体を動かしたあとのお風呂は気持ちがいい。左手を右肩から指先に滑らせる。防衛隊の基本的な戦い方は、ナイトメアやエターナルの幹部クラスの敵を圧倒的多数で包囲して、力まかせに押しつぶすというものだ。騎馬(?)隊は敵の退路を断つために先回りをし、前進してきた歩兵とともに取り囲んで揉みつぶす。

なので、訓練の最後はいつもフルーレを振るっての白兵戦になる。相手は模擬の槍や剣を使い、わたしもプリキュアに変身しているとはいえ、もみくちゃにされればやはり多少の打ち身やアザができてしまう。あまりあとが残らなければいいな、と思いながら、お湯の中でお腹をなでる。

ちゃぷちゃぷん。

「かれん、タオルここに置いておくミル。」
「ありがとう、ミルク。」
「どういたしましてミル。グレープジュースが冷えてるミル。お風呂が終わったら一緒に飲むミル。」
「わかったわ。もうすぐ上がるわ。」
「待ってるミルー。」

いちばん最初はお風呂の後にタオルや着替えやジュースを持ったお世話係が、「かれん様、ご苦労様でした○○!」とずらっと列を組んで待機していたのだが、ミルクに頼んでやめてもらった。

ミルクに言わせればわたしたちプリキュアがパルミエ王国に来たときのお世話係を希望する者は後を絶たないそうだ。でも、わたしはお世話してもらうほどに偉くないし、体も自分で拭けるし、なにより恥ずかしいのでお世話係についてもらうのは断った。ミルクは少し残念そうにしていたが「かれんがそういうなら仕方ないミル。」と、お世話係を説得してくれた。

「わたしにはミルクがいてくれれば、それで充分よ」と言うと「エヘヘ、それもそうミル」とミルクは照れながら嬉しそうにしていた。

ミルキィローズVSキングギドラ4

わたしも最初は断った。ココとナッツの考えは理解できるのだが、共感はできなかった。人と人は必ず分かりあえる。戦いは何も産み出さない。全てを奪っていくだけだ。

「ココも分かりあえるって信じたいココ。でも、それはかれんたちの世界が長い歴史の中でいくつもの戦いを経て、理不尽な暴力を押さえることのできるルールを作ることができたから、言えることココ。」

「このパルミエ王国のある世界は、まだそのレベルに達していないと言わざるをえないナツ。ナイトメアやエターナルみたいな、分かりあうことのできない理不尽な暴力が未だに存在する世界ナツ。理不尽な暴力から大事なものを守るためには、どんなにつらくても、悲しくても戦わなければならないこともあるナツ。守るために、戦う力がいるナツ。」

亡国を経験した王たちの言葉は重かった。結局、ココとナッツの情熱にほだされたのと、守るために戦わなければならないという考えには共感できること、パルミエ王国の国民たちが、自分の手で自分の国を守りたいと考え、防衛隊に賛意を示していること、そういういくつかの理由に納得して、訓練の相手役をわたしは引き受けることにした。

それで、わたしはのぞみたちとパルミエ王国に来る以外にも、ときどき「敵」になりにパルミエ王国にやってきているのだ。

題名未定3

西暦201X年 パルミエ王国 王宮

防衛隊はキュアアクアの撃退に成功した。わたしは負けた。

結局のところ、最初から負ける想定になっていたし、それをわたしは知っていた。発足したばかりの防衛隊に自信をつけさせるために、そこそこの力で戦ってあげてそこそこのところで負けてあげる。言わば当て馬だ。

最初にこれをココとナッツに頼まれた時は耳を疑った。彼らが防衛隊、言わば軍隊を組織するなどと言ったことが信じられなかった。ココはこうわたしに言った。

「國という字は、領土の中の民を兵士が戈(ほこ)で守っている姿を表しているココ。かれんやのぞみたちプリキュアのおかげでココたちはパルミエ王国を取り戻すことができたココ。でも、いつまでも守ってもらうだけじゃだめなんだココ。本当に守りたいものは、自分たちで守らなきゃいけないココ。自分たちでパルミエ王国を守れるようになって初めて、パルミエ王国は國を名乗る資格がある、そう思うココ。」

そのあと、ナッツが本当はミルクに敵役をやらせたいのだが、発足したばかりの防衛隊が現状でメタルブリザードに対処するすべを持たず(将来は対処させたいらしい)、いきなり消滅してしまうのは避けたいこと、プリキュア5の中で頼めそうなのはわたししかいないこと(のぞみ、うららは論外。りんも話のスケールが大きくて理解できない、こまちは理解はしてくれても協力は断るだろう)を話してくれた。